頭部外傷や脳血管障がい等によって脳に残る損傷の後遺症として、記憶障がいや注意障がい、遂行機能障がい、社会的行動障がいなどの認知障がいが生じる場合があります。
高次脳機能障がいとは、これらに起因して、日常生活・社会生活への適応が困難となる障がいです。
(平成13年度~平成17年度 高次脳機能障害支援モデル事業において策定された行政的定義)
具体的な症状と疑われる症状
記憶障がい
具体的な症状
物の置き場所を忘れたり、新しい出来事を覚えていられなくなったりすること。
そのために何度も同じことを繰り返し質問したりする。
<疑われる症状>
そのために何度も同じことを繰り返し質問したりする。
<疑われる症状>
- 約束を守れない、忘れてしまう。
- 大切な物をどこにしまったかわからなくなる。
- 他人が盗ったと言う。
- 作り話をする。
- 何度も同じことを繰り返して質問する。
- 新しいことを覚えられなくなる。
注意障がい
具体的な症状
ぼんやりしていて、何かをするとミスばかりする。
2つのことを同時にしようとすると混乱する。
<疑われる症状>
2つのことを同時にしようとすると混乱する。
<疑われる症状>
- 椅子や車椅子で寝ていることが多い。
- 車椅子で病棟内を歩き回り、他の部屋に入っていく。
- 他人に興味をもち、くっついて離れない。
- 隣の人の作業に、ちょっかいを出す。
- 周囲の状況を判断せずに行動を起こそうとする。
- エレベーターのドアが開くと乗り込んでしまう。
- 作業が長く続けられない。
- 人の話を自分のことと受け取って反応する。
遂行機能障がい
具体的な症状
自分で計画を立てて物事を実行できない。
人に指示してもらわないと何もできない。いきあたりばったりの行動をする。
<疑われる症状>
人に指示してもらわないと何もできない。いきあたりばったりの行動をする。
<疑われる症状>
- 約束の時間に間に合わない。
- 仕事が約束どおりに仕上がらない。
- どの仕事も途中で投げ出してしまう。
- 記憶障がいを補うための手帳を見ると、でたらめの場所に書いてしまう。
- これまでと異なる依頼をすると、できなくなってしまう。
社会的行動障がい
具体的な症状
すぐ他人を頼る、子どもっぽくなる(依存、退行)。
無制限に食べたり、お金を使ったりする(欲求のコントロール低下)。
すぐ怒ったり笑ったりする、感情を爆発させる(感情コントロール低下)。
相手の立場や気もちを思いやれず、よい人間関係が作れない(対人技能拙劣)。
1つのことにこだわって他のことができない(固執性)。意欲の低下、抑うつ、など。
<疑われる症状>
無制限に食べたり、お金を使ったりする(欲求のコントロール低下)。
すぐ怒ったり笑ったりする、感情を爆発させる(感情コントロール低下)。
相手の立場や気もちを思いやれず、よい人間関係が作れない(対人技能拙劣)。
1つのことにこだわって他のことができない(固執性)。意欲の低下、抑うつ、など。
<疑われる症状>
- 興奮をする、大声を出す、暴力を振るう。
- 思いどおりにならないと、決まって大声を出す。
- 他人につきまとって迷惑な行為をする。
- 訓練スタッフに付き合えと強要する。
- 不潔行為やだらしない行為をする。
- 自傷行為をする。
- 自分が中心でないと満足しない。
病識欠落
具体的な症状
自分が障がいをもっていることに対する認識がうまくできない。
障がいがないかのように振る舞ったり、言ったりする。
<疑われる症状>
障がいがないかのように振る舞ったり、言ったりする。
<疑われる症状>
- 困っていることは何もない。
- うまくいかないのは、相手のせいだと考えている。
- 自分にはどのようなこともできると確信している。
行政的な診断基準
「高次脳機能障がい」という用語は、学術用語としてであれば、脳損傷に起因する認知障がい全般を指します。この中にはいわゆる巣症状としての失語・失行・失認のほか記憶障がいや注意障がい、遂行機能障がい、社会的行動障がいなどが含まれます。
一方、平成13年度に開始された高次脳機能障がい支援モデル事業において、蓄積された脳損傷者のデータを慎重に分析した結果、記憶障がいや注意障がい、遂行機能障がい、社会的行動障がいなどの認知障がいを主たる要因として、日常生活および社会生活への適応に困難を有する一群が存在し、これらについては、診断やリハビリテーション、生活支援等の手法が確立していないため早急な検討が必要なことが明らかとなりました。
そこでこのような方々への支援対策を推進する観点から、行政的に、この一群が示す認知障がいを「高次脳機能障がい」と呼び、この障がいを有する者を「高次脳機能障がい者」と呼びます。
その診断基準は以下の通りです。
診断基準
I.主要症状等
- 脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。
- 現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障がい、注意障がい、遂行機能障がい、社会的行動障がいなどの認知障がいである。
II.検査所見
MRI、CT、脳波などにより認知障がいの原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。
III.除外項目
- 脳の器質的病変に基づく認知障がいのうち、身体障がいとして認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。
- 診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。
- 先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障がい、進行性疾患を原因とする者は除外する。
IV.診断
- I~IIIをすべて満たした場合に高次脳機能障がいと診断する。
- 高次脳機能障がいの診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。
- 神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。
なお、診断基準のIとIIIを満たす一方で、IIの検査所見で脳の器質的病変の存在を明らかにできない症例については、慎重な評価により高次脳機能障がい者として診断されることがあり得る。
また、この診断基準については、今後の医学・医療の発展を踏まえ、見直しを随時行うことが適当である。
また、この診断基準については、今後の医学・医療の発展を踏まえ、見直しを随時行うことが適当である。
診断書
診断書(93KB) |
原因疾患
頭部外傷(外傷性脳損傷)
- 局所性脳損傷:急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、脳挫傷(外傷性脳内血腫)など。
- びまん(広範)性脳損傷:びまん(広範)性軸索損傷、びまん性脳腫脹、血管損傷、外傷性くも膜下出血など。
脳血管障がい
脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血、脳動静脈奇形、モヤモヤ病など。
感染症・炎症
脳炎、脳膿瘍、脱随性疾患(多発性硬化症など)、神経梅毒など。
代謝性疾患
低酸素脳症、内分泌疾患など。
中毒性疾患
薬物中毒、慢性アルコール中毒、一酸化炭素中毒など。
その他
変性疾患、脳手術の術後など。